この批判を受けて、両学会は8日、「『新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言』に関する補足説明」とする文書を公表した。 ゾコーバの治験に参加して利益相反があった3人の役員が提言作成に関わっていたにもかかわらず、最初の提言の時点で利益相反の開示をしていなかったことが明らかとなった形だ。 11月に塩野義製薬が出すとしている最終結果を待たずに、緊急承認を迫った理由については、審議会や提言でなされた主張を繰り返すばかりだった。 まず、「提言」は、7月20日に承認審査が継続審議となった後、 「医療逼迫・医療崩壊が起こっている状況にもかかわらず、審議会ではその状況を踏まえた検討がなされていないのではないか。また、当日の議論が抗ウイルス薬としての評価ではなく、他の内容がほとんどを占めているのは問題ではないのか」 との意見が学会に寄せられたため、作成を開始したと説明。 両学会から提言について話し合うメンバーを選出し、ウェブ会議を8月中に2回行うとともにメールでの意見交換を行なって、文案を作成したとした。 そして、その提言案は、「両学会の役員(理事・監事)全員にお示ししてご意見を伺いました」とし、「提言を出すことに対して反対意見はありませんでした」と、役員の総意で出されたことを明らかにした。 その上で、役員からの意見を反映して修正し、8月下旬に最終案をまとめたとしている。 補足説明の最後には、感染症学会の四柳宏理事長と大曲貴夫理事は、ゾコーバの「治験調整医師」を、両学会の迎寛理事は「医学専門家」を務めており、利益相反があったことを認めている。 「治験調整医師」は治験の取りまとめをする役割の医師、「医学専門家」は企業が治験計画や開発計画を策定するにあたって助言を求める医師のことを指す。 通常、こうした肩書きを持つ医師は提言の決議からは外し、作成に加わったならば利益相反の有無を明記するのが医学的に公正なやり方だ。 提言は両学会の役員全員に意見を聞いてまとめたと説明しており、この利益相反のある役員も議論から除外せずに、特定の薬の緊急承認を求める提言をまとめたことを、事実上認めたことになる。

なぜ今、わざわざ提言を出したのか?

また、塩野義製薬は遅くとも11月には治験の最終報告書を出すと厚労省に伝えており、なぜその結果を待たずに緊急承認を求める提言を出したのかについて、複数の医師ら専門家から疑問の声が出ている。 これについては、「ゾコーバの審議が11月に行われた場合、実際に薬が使えるのは12月以降だと思います。この時期には既にインフルエンザが流行していることが懸念されます」とし、 「新型コロナウイルス感染症の流行が抑えられないままインフルエンザの流行が始まった場合、医療現場は現在以上に逼迫・混乱することが危惧されます」と、新型コロナの第8波とインフルエンザのダブル流行による医療現場の逼迫を危惧したことを説明している。 だが、その危惧に対する解決策として、ゾコーバの緊急承認を求めた理由については、「重症化リスクのない患者にも投与できるゾコーバを投与可能にすることが必要」とする、審議会や提言での主張を繰り返しただけだった。

ウイルス量を減らす意味、緊急承認を求める意味は?

ゾコーバの治験の中間報告では、ウイルス量を減らす効果は確認されたものの、入院や死亡率の減少を証明できず、12症状を総合的に改善できなかったことが明らかにされている。 これについても、有効性を示すための後付けの分析として批判された「発熱や呼吸器症状の改善を認めた」とするデータ解析後の分析結果を改めて示した。これは審議会の議論の上、有効性の説明として不適切と結論されたデータだ。 さらに「ウイルス量の早期の減少は、臨床症状の改善につながると考えられ、その結果は今後の臨床試験で明らかにされることが期待されます」 とし、ウイルス量の減少が患者の症状の改善につながるかどうかは、今後の臨床試験の結果を待たなければならないことを自ら強調した形だ。 また、緊急承認を学会として求めた理由については、「”60歳以下のリスクのない方”に対する効果が期待され、その結果感染・健康被害の拡大が防止できる薬であるかどうか”の確認が充分行われたように思えなかったことがきっかけ」として、従来の主張を繰り返した。

ワクチン接種にも触れつつ、抗ウイルス薬が流行を抑えるように主張

また、今回の補足説明では、「国民をこの感染症から守るにはできるだけ多くの国民にブースター接種を含めたワクチン接種を進めつつ」と、ワクチン接種の推進について触れた。 一方で、「症状があり投与を希望する感染者には抗ウイルス薬の投薬を行いながら感染者の発生をなだらかにすることが必要ではないかと考えます」と、抗ウイルス薬が流行を抑える効果があるかのように主張している。 これについては感染症の専門家らからも、「抗ウイルス薬が流行を抑制するというエビデンスはない」と批判されている。

「製薬企業への利益を目的としたものではない」と強調 利益相反を明記しなかった理由については明らかにせず

その上で、最後に、「本提言の作成に関わった方・両学会役員は,以上のような考えで提言を行っており、製薬企業等への利益を目的としたものではありません」と強調。 一方で、3人の役員がゾコーバの治験に関わったことを最後に明らかにしており、前回の提言を、利益相反を伏せたまま出したことへの批判については、説明がなされていない。

臨床試験に詳しい専門家「利益相反」を明記しないことは残念

「補足説明」も結局は疑問を深める内容になったが、新型コロナウイルスの啓発を行う専門家集団「こびナビ」事務局長で、臨床試験の仕組みについて詳しい黑川友哉氏は、以下のような厳しい批判のコメントを寄せた。 冒頭で、「日本感染症学会・日本化学療法学会で今後の方向性について話し合って頂く方を両学会から選出」された旨が記載されていますが、選出方法は適正であったのでしょうか。ゾコーバの緊急承認を強く推す文書を書くことを目的とした人選とみられても仕方ないように思います。 また提言や今回の補足資料の中でも、「リスクのない方」「若い世代」への有用性に期待していることが示されていますが、そもそもゾコーバの緊急承認審議の中で、これらの方に限定した場合の有効性のデータは示されていないかと思います。 層別解析といって、試験の中でリスクや年齢といった情報を取得していれば示すことは可能なはずのデータが出ていない中で、これらの限定された集団に対する有用性の主張も無理があると思います。

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